ゲームの「基礎ルールの穴」とその調整方法について
この記事はBoard Game Design Advent Calendar 2019に寄稿するために書かれた
デザインについての簡単なコラムになります。
どうも。Power9Gamesのナインと申します。
過去作では「Dragon's Stone Revised」や
「ひつじとどろぼう」(ペガサスシュピール様から海外で「Sheep & Thief」として出版されました)があります。
中量級以上はドラフトゲームばかり出しているため、ドラフト特化デザイナーと思われがちなので(笑)
今回はちょっとドラフトから離れて、制作関連のコラムみたいなものを書いてみたいと思います。
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ゲームの「基礎ルールの穴」とその調整方法について
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■ゲームの「基礎ルール」の穴とは?
ゲーム作成のスタートはいろいろなパターンがありますが
・自分が好きなゲームのアレンジ版を思いついた
・2つのゲームのこことここを繋げたら面白くなる気がした
・たまたま、面白いネタをおもいついた
など、唐突に「ゲーム」が出来てしまうこともあります。
良いことです(笑)が、問題は
出来てしまった「ゲーム」をどう評価するべきなのか。
これは結構難しい問題で、自分が世に出していないゲーム案の中でも
・他の人にすごく褒められてるゲーム
と
・他の人はニガめな顔をするけど自分ではそんなに悪くないと思ってるゲーム
があります(笑)
同人ゲーム制作なので、
ほかの人のリアクションなんか気にせずに作ってしまえ!
というノリも良いのですが、ゲームを出した後なってから後悔するのは(制作コスト的にも)
もったいないので、制作中に自己チェックできる方が良いでしょう。
いわゆる、テストプレイと検証です。
ただ、制作者自身というのは「このゲームが面白い」と思ってゲームを作り上げているので
ゲームの悪い点を気づけなかったり、過少評価しがちです。
そんなわけで、ありがちな「バランスミス」や「考慮抜け」に当たる項目を列挙してみたいと思います。
■注意すべき、ルールの穴の列挙
・マニュアルやカードの表記がわかりずらい
ルールには正しく記載していても誤解を生む可能性があるデザインだと、
直観的に誤ったプレイをされてしまいがちです
・特定のカード(能力or役職or機能)を使った人が必ず勝つ
・特定の役職を使った人が勝つことはありえない
・特定の戦法を使った人が必ず勝つ
・得点で先行した人が必ず勝つ
・先手番(もしくは特定手番)の人が必ず勝つ、もしくは特定手番の人に勝機がない
・特定の人数でのプレイ時に、公平でない状態になる
陣営戦があるゲームで奇数プレイを許可している場合にありがちです。
・最後に運の要素強めに影響して勝者が決まる
最後に大きな勝利点が入る要素がある場合、その中で最高の建築物を建てた人が勝つ。などはありがちです
・誰かがちょっと特殊なプレイの仕方をするだけで、ゲーム全員(全体)の体験が壊れる
「モダンアートで相場観が違う人が1人いると場が荒れる」問題などもありますが、
ごきぶりポーカーをカードを見ないでプレイする人と同卓しても体験は壊れてしまいます。
ルールに「見る」ことを明記するなど、対策を考える価値はあります
・ルールの意味がわからない
過度に複雑なルールになっていて理解がしずらいケース、能力語が世界観に寄りすぎてわからないケースがあります
特に能力語は、1つ2つくらい入れるのはなんとかなりますが、多数入れた場合は混乱の種になります
・作戦を考えてプレイできない
各手番で、自分で「考えて」「決断する」だけの自由度があること。
これを軽視するとドロー運などの「手なりで進めるだけ」と感じてしまって、面白く感じにくくなります。
※ライトなゲームにしたり、フレーバーでノリを求めたり、等で対策はできます
・過度な考えすぎを生み出す状況が発生しやすい
将棋のようなランダム性が低いゲームになると、手番の先読みなどで長考が発生しやすくなります。
考える価値があるのは良いのですが、深い思考を連続で強いると、プレイヤーの疲労度は格段にあがりやすくなります
(他にもいろいろあると思いますが、思いついたものを列挙した。という程度で)
■「注意すべき点」を最終評価するのは誰か?
注意すべき点を読んでも、ピンとこなかったり
自分のゲームは関係ないな。的に感じる制作者も結構いると思うのですが、
さきほど書いた通り、制作者自身はこの「注意すべき点」を軽視しがちです。
自分のゲームはちょっと初手番の人が強いかもしれないけど、そういうゲームだから。
といった風に、制作者自身は意外と納得というか、
そういうものだと理解したまま進行するパターンは多いと思いますが、
この「注意すべき点」を評価するのは、完成したゲームを遊ぶプレイヤーです。
しかも、そのプレイヤーが遊ぶときに制作者自身はアドバイスもできないし、何も関与できませんし
1日に同じゲームで何度も遊んでくれることはめったにありません。
プレイヤーがあなたのゲームを「競技的なゲームだろう」という先入観で遊んで「初手番が強い」という印象を受けると、
「これは初手番が強いゲームなので、手番決めでゲームの8割が決まります」
というような評価につながってきます。
なので、「注意すべき点」とは制作者であるあなたが注意するべきというより
遊んでくれるプレイヤーにどう思われるのかを、注意すべき点です。
こればかりは、熟練のゲームデザイナーでも見落としたり、軽視したり、チェックが抜ける事は多々あります。
なので他の人との確認「テストプレイ」をして検証しておく必要がでてきます。
■確認「テストプレイ」とは?
通常の制作中のゲームの「テストプレイ」では、
・ゲームのここの部分が気になる
・こういう部分をこう変えたらどうか
といった、ゲームルールの中身についての意見が出ることが多いと思うのですが、
自分の経験上、ゲームの内容への意見に集中しすぎた結果
注意すべき点の項目をスルーしてテストプレイが行われて、
最後まで気づかれないままになってしまう事も結構あります。
それらの意見を受け取るのと同時に、注意すべき点であがった項目についても
直接聞いてみて、どう感じたか感想をまとめておくのをオススメします。
これは気になる項目だけでも良いので、初期のテストプレイだけではなく
テストプレイをやるたび常に確認する。ぐらいの方がよいでしょう。
ではここで見つかった問題点はどうすればよいのでしょうか。
■分かった問題点をどう調整するか
問題点の内容によっては、仕組み的に解決できるものも多いと思いますが、
解決の仕方はゲームによってどれが望ましいのか、変わってきます。
例えば「先手番の人が勝ちやすい」が問題のときの解決方法は
・先手以降の手番の人に少しずつ初期得点を配布する
・先手番だけ初期資源がちょっと少ない
・先手番だけ、選択できない行動選択肢がある
・次のラウンドは、先手番は必ず最終手番になる
などが考えられます。(もっとほかにもあるでしょうけれど)
ただ、どれを選んでもゲームの初期セットアップに1工程増えたり、
ゲーム開始時のタイミングだけの特別処理のルールが追加されたりします。
こういう形で A の問題を A解決ルール でふさいでいくのは
普通のアプローチに見えますが、この手法でゲーム制作を進めていくと
いつのまにか細かいルールが増えてしまい、あそびにくいゲームになりがちです。
なので、例えばゲームによっては
「先手番の人が勝ちやすい」が問題はあるが、
・ゲームのプレイ時間を短くして、あまり気にならないようにする
といった、ルールを追加して修正するのではなく、構造を変えて目立たなくするアイデアも重要です。
または注意すべき点ではあるものの、客観的に見てもそれほど考慮するほどの問題ではなく、
むしろ調整することで過度にルールを増やしてしまい、本末転倒になるケースもあり得ます。
そのため、この調整のタイミングでは
・原型の面白さを損なわない
・問題点を修正できるが、ルールが増えたり煩雑になったりしない
・可能なら「ルールを引き算して」問題点を修正できないか検討する
ことに留意しながら、調整を考えていく必要があります。
あとは、この繰り返しです。
■ループ&ループ
ここからは、テストプレイで出た「ゲームのルール本体」「プレイ体験」への感想を元に
ルールの調整 ⇒ 調整後の方が面白くなっているか ⇒ 調整後の基礎ルールに問題はないか
のループの時間です。
慣れてくると1人で4人プレイをするような、いわゆる1人回しでのプレイでも
基礎ルールの穴に気づきやすくなったり、ルール改変の勘どころがつかめるようになりますが
ゲームを最初に作った時などでは、遊んで、感想を聞く。以外の方法は無いと思います。
テストプレイでゲーム内容(体験)が良くなった!やった!!
と思っていたら、基礎ルールに穴ができていた。
もしくは基礎ルールにちょっと穴があると分かってはいるけど、
体験が良くなったからこれでよいだろう!
というのは、とてもありがちな所です。
ですが、ゲームをリリース後に
「そこをそんなに指摘されるとは思わなかった…」
という悲しみとなって跳ね返ってきてしまいます。
ゲーム本体のルールについては、
制作者のエゴの塊でも全然かまわないし、むしろそうあって欲しいのですが、
基礎ルールの穴はみなさまくれぐれもチェック抜けの無いように…
(自戒も込めて)
デザインについての簡単なコラムになります。
どうも。Power9Gamesのナインと申します。
過去作では「Dragon's Stone Revised」や
「ひつじとどろぼう」(ペガサスシュピール様から海外で「Sheep & Thief」として出版されました)があります。
中量級以上はドラフトゲームばかり出しているため、ドラフト特化デザイナーと思われがちなので(笑)
今回はちょっとドラフトから離れて、制作関連のコラムみたいなものを書いてみたいと思います。
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ゲームの「基礎ルールの穴」とその調整方法について
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■ゲームの「基礎ルール」の穴とは?
ゲーム作成のスタートはいろいろなパターンがありますが
・自分が好きなゲームのアレンジ版を思いついた
・2つのゲームのこことここを繋げたら面白くなる気がした
・たまたま、面白いネタをおもいついた
など、唐突に「ゲーム」が出来てしまうこともあります。
良いことです(笑)が、問題は
出来てしまった「ゲーム」をどう評価するべきなのか。
これは結構難しい問題で、自分が世に出していないゲーム案の中でも
・他の人にすごく褒められてるゲーム
と
・他の人はニガめな顔をするけど自分ではそんなに悪くないと思ってるゲーム
があります(笑)
同人ゲーム制作なので、
ほかの人のリアクションなんか気にせずに作ってしまえ!
というノリも良いのですが、ゲームを出した後なってから後悔するのは(制作コスト的にも)
もったいないので、制作中に自己チェックできる方が良いでしょう。
いわゆる、テストプレイと検証です。
ただ、制作者自身というのは「このゲームが面白い」と思ってゲームを作り上げているので
ゲームの悪い点を気づけなかったり、過少評価しがちです。
そんなわけで、ありがちな「バランスミス」や「考慮抜け」に当たる項目を列挙してみたいと思います。
■注意すべき、ルールの穴の列挙
・マニュアルやカードの表記がわかりずらい
ルールには正しく記載していても誤解を生む可能性があるデザインだと、
直観的に誤ったプレイをされてしまいがちです
・特定のカード(能力or役職or機能)を使った人が必ず勝つ
・特定の役職を使った人が勝つことはありえない
・特定の戦法を使った人が必ず勝つ
・得点で先行した人が必ず勝つ
・先手番(もしくは特定手番)の人が必ず勝つ、もしくは特定手番の人に勝機がない
・特定の人数でのプレイ時に、公平でない状態になる
陣営戦があるゲームで奇数プレイを許可している場合にありがちです。
・最後に運の要素強めに影響して勝者が決まる
最後に大きな勝利点が入る要素がある場合、その中で最高の建築物を建てた人が勝つ。などはありがちです
・誰かがちょっと特殊なプレイの仕方をするだけで、ゲーム全員(全体)の体験が壊れる
「モダンアートで相場観が違う人が1人いると場が荒れる」問題などもありますが、
ごきぶりポーカーをカードを見ないでプレイする人と同卓しても体験は壊れてしまいます。
ルールに「見る」ことを明記するなど、対策を考える価値はあります
・ルールの意味がわからない
過度に複雑なルールになっていて理解がしずらいケース、能力語が世界観に寄りすぎてわからないケースがあります
特に能力語は、1つ2つくらい入れるのはなんとかなりますが、多数入れた場合は混乱の種になります
・作戦を考えてプレイできない
各手番で、自分で「考えて」「決断する」だけの自由度があること。
これを軽視するとドロー運などの「手なりで進めるだけ」と感じてしまって、面白く感じにくくなります。
※ライトなゲームにしたり、フレーバーでノリを求めたり、等で対策はできます
・過度な考えすぎを生み出す状況が発生しやすい
将棋のようなランダム性が低いゲームになると、手番の先読みなどで長考が発生しやすくなります。
考える価値があるのは良いのですが、深い思考を連続で強いると、プレイヤーの疲労度は格段にあがりやすくなります
(他にもいろいろあると思いますが、思いついたものを列挙した。という程度で)
■「注意すべき点」を最終評価するのは誰か?
注意すべき点を読んでも、ピンとこなかったり
自分のゲームは関係ないな。的に感じる制作者も結構いると思うのですが、
さきほど書いた通り、制作者自身はこの「注意すべき点」を軽視しがちです。
自分のゲームはちょっと初手番の人が強いかもしれないけど、そういうゲームだから。
といった風に、制作者自身は意外と納得というか、
そういうものだと理解したまま進行するパターンは多いと思いますが、
この「注意すべき点」を評価するのは、完成したゲームを遊ぶプレイヤーです。
しかも、そのプレイヤーが遊ぶときに制作者自身はアドバイスもできないし、何も関与できませんし
1日に同じゲームで何度も遊んでくれることはめったにありません。
プレイヤーがあなたのゲームを「競技的なゲームだろう」という先入観で遊んで「初手番が強い」という印象を受けると、
「これは初手番が強いゲームなので、手番決めでゲームの8割が決まります」
というような評価につながってきます。
なので、「注意すべき点」とは制作者であるあなたが注意するべきというより
遊んでくれるプレイヤーにどう思われるのかを、注意すべき点です。
こればかりは、熟練のゲームデザイナーでも見落としたり、軽視したり、チェックが抜ける事は多々あります。
なので他の人との確認「テストプレイ」をして検証しておく必要がでてきます。
■確認「テストプレイ」とは?
通常の制作中のゲームの「テストプレイ」では、
・ゲームのここの部分が気になる
・こういう部分をこう変えたらどうか
といった、ゲームルールの中身についての意見が出ることが多いと思うのですが、
自分の経験上、ゲームの内容への意見に集中しすぎた結果
注意すべき点の項目をスルーしてテストプレイが行われて、
最後まで気づかれないままになってしまう事も結構あります。
それらの意見を受け取るのと同時に、注意すべき点であがった項目についても
直接聞いてみて、どう感じたか感想をまとめておくのをオススメします。
これは気になる項目だけでも良いので、初期のテストプレイだけではなく
テストプレイをやるたび常に確認する。ぐらいの方がよいでしょう。
ではここで見つかった問題点はどうすればよいのでしょうか。
■分かった問題点をどう調整するか
問題点の内容によっては、仕組み的に解決できるものも多いと思いますが、
解決の仕方はゲームによってどれが望ましいのか、変わってきます。
例えば「先手番の人が勝ちやすい」が問題のときの解決方法は
・先手以降の手番の人に少しずつ初期得点を配布する
・先手番だけ初期資源がちょっと少ない
・先手番だけ、選択できない行動選択肢がある
・次のラウンドは、先手番は必ず最終手番になる
などが考えられます。(もっとほかにもあるでしょうけれど)
ただ、どれを選んでもゲームの初期セットアップに1工程増えたり、
ゲーム開始時のタイミングだけの特別処理のルールが追加されたりします。
こういう形で A の問題を A解決ルール でふさいでいくのは
普通のアプローチに見えますが、この手法でゲーム制作を進めていくと
いつのまにか細かいルールが増えてしまい、あそびにくいゲームになりがちです。
なので、例えばゲームによっては
「先手番の人が勝ちやすい」が問題はあるが、
・ゲームのプレイ時間を短くして、あまり気にならないようにする
といった、ルールを追加して修正するのではなく、構造を変えて目立たなくするアイデアも重要です。
または注意すべき点ではあるものの、客観的に見てもそれほど考慮するほどの問題ではなく、
むしろ調整することで過度にルールを増やしてしまい、本末転倒になるケースもあり得ます。
そのため、この調整のタイミングでは
・原型の面白さを損なわない
・問題点を修正できるが、ルールが増えたり煩雑になったりしない
・可能なら「ルールを引き算して」問題点を修正できないか検討する
ことに留意しながら、調整を考えていく必要があります。
あとは、この繰り返しです。
■ループ&ループ
ここからは、テストプレイで出た「ゲームのルール本体」「プレイ体験」への感想を元に
ルールの調整 ⇒ 調整後の方が面白くなっているか ⇒ 調整後の基礎ルールに問題はないか
のループの時間です。
慣れてくると1人で4人プレイをするような、いわゆる1人回しでのプレイでも
基礎ルールの穴に気づきやすくなったり、ルール改変の勘どころがつかめるようになりますが
ゲームを最初に作った時などでは、遊んで、感想を聞く。以外の方法は無いと思います。
テストプレイでゲーム内容(体験)が良くなった!やった!!
と思っていたら、基礎ルールに穴ができていた。
もしくは基礎ルールにちょっと穴があると分かってはいるけど、
体験が良くなったからこれでよいだろう!
というのは、とてもありがちな所です。
ですが、ゲームをリリース後に
「そこをそんなに指摘されるとは思わなかった…」
という悲しみとなって跳ね返ってきてしまいます。
ゲーム本体のルールについては、
制作者のエゴの塊でも全然かまわないし、むしろそうあって欲しいのですが、
基礎ルールの穴はみなさまくれぐれもチェック抜けの無いように…
(自戒も込めて)
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